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2015年9、10月に読んだ本

 
Kindleで日本語の本を買うにもお金がかかるので、せっかくカナダにいるのだしと図書館の本を借りて読むことにしました。
 

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1冊目

Miranda JulyのIt Chooses You
 
邦題は『あなたを選んでくれるもの』で岸本佐知子さんが訳されています。
 
フリーペーパーに出された売買広告を元に、ミランダ・ジュライが売主をインタビューして回るというインタビュー集。
 
事実は小説より奇なりとはよく言いますが、作者が出会う人々は一人一人強烈な個性を放っていて、それは売りに出した持ち物から、部屋のインテリアから、服装から装飾からも醸し出されています。
 
今までミランダ・ジュライというと、映画も作るし、小説も書くし、アーティストでミュージシャンで器用な人だなというか、お洒落文化系女子の最高峰的ポジションの人かと思っていたのですが、
インタビューして回っている時の反応が、まじかよ・・・やべえよ・・・みたいな感じで、ミランダ・ジュライに一気に親近感が湧いたのでした。
 
それぞれの物の記憶や、それぞれの人々の人生の断片はミランダがインタビューせずとも残ったでしょうが、本にしたことで、死ぬまで触れることのない私のようなものにまで、誰かの記憶が届いてしまう、入り込んでしまうということについて、感傷的な気持ちになったのでした。

 

It Chooses You
It Chooses You

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Miranda July
Mcsweeneys Books
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<日本語版>
あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)
ミランダ ジュライ
新潮社
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2冊目 

同じくMiranda July繋がりで、Learning to Love You More
 
邦訳は出ていないようです。
 
Webサイトに掲載された様々なお題を見た人々が、実際の生活の中で、それらを実践し応答したものがまとめられた本です。
 
無数の人々の生活の断面を切り取ってコラージュしていく手つきから、Lydia Davisを現実に展開したらこんな感じなのだろうかと思います。
 
お題は死の間際にある人と時間を過ごしなさいといったヘビーなものから、ベッドの下の写真を撮影しなさいといったとっつきやすいものまで様々。
 
このそれぞれの人々の生活の断片、記憶といったテーマがさらに生々しく展開されたのが、”It Chooses You”だったのだろうかとも思いました。

 

Learning to Love You More
Learning to Love You More

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Harrell Fletcher Miranda July
Prestel Pub
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3冊目 

みんな大好き都甲幸治さんの読んで、訳して、語り合う。都甲幸治対談集​ (立東舎)Amazonポイントがちょうど良い時に手に入ったので、思い切って購入したのでした。
 
都甲先生のように、ずば抜けた頭脳を持ち、マジョリティ街道を爆走できるはずの人が、アメリカに留学し、これでもかと疎外され、内なるマイノリティ性を獲得して日本に帰国したという一連のこの流れ、
 
対談を読んでいても、村上春樹の女性嫌いではないかと思われる描写について発言し(私は完全に同意)、
内田樹さんに
「なるほど。わりと政治的に正しい批判するんだ、都甲さんて。」
と言われたり、
 
星野さんとの対談で、『夜は終わらない』の主題について、
日本社会にある女性の抑圧、都甲さんの言葉で言うと「魂を焼き尽くすかのように、日本社会に住んでいる女性は心を焼かれ、体を焼かれて暮らしている」と述べ、
星野さんに「この作品について、それを男性の読み手が言ってくださったのは初めてです。それはこの小説の根幹のテーマです」と言わしめるあたり、
サイコー!!!じゃないですか?
 
マッドマックスを安心して見られるように、安心して読める作家、それが都甲先生。
 
岸本佐知子さんや小野正嗣さんと大学時代共に学んでいたというのもへーですし、都甲先生がアメリカ留学中心が折れて岸本さんに電話をかけ「アメリカもアメリカ人も大嫌いだ」と言っていたエピソードなんかも微笑ましかったです。

 

読んで、訳して、語り合う。都甲幸治対談集​ (立東舎)
都甲 幸治 いしい しんじ 岸本 佐知子 堀江 敏幸 内田 樹 沼野 充義 芳川 泰久 柴田 元幸 藤井 光 星野 智幸 小野 正嗣
リットーミュージック
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4冊目 

たまらなくなり購入した都甲先生の生き延びるための世界文学: 21世紀の24冊
 
今現在の私の最も参照するブックガイドとなっています。
 
英語で書かれている、という共通点をもって、様々な国を出自とした作家の小説が紹介されています。
 
気になったのは、中国生まれで20歳から英語を勉強し始め、非英語圏出身者として全米図書賞を受賞したHa Jin、
 
カリフォルニア州オークランド生まれ、日系3世で早稲田大学留学後、ブラジルに渡り日系ブラジル人について研究し創作を始めたKaren Tei Yamashita
 
詩でもない、散文でもない、超短編ともいいかねる言葉の断片を切り取るLydia Davis(元夫がPaul Austerというのもへーであった)

 

生き延びるための世界文学: 21世紀の24冊
都甲 幸治
新潮社
売り上げランキング: 363,066
 
 

5冊目 

『21世紀の世界文学30冊を読む』で紹介されていたHa Jin、早速デビュー作のOcean of Words: Stories (Vintage International)借りてきました。
 
A Good Fall (Vintage International)Waiting も気になったのですが、まずはデビュー作から読んでみようということで。
 
舞台は1970年代、中ソ対立が激化していた国境での軍隊内での出来事がメインになっています。
 
毛沢東や、社会主義の理念に準拠し軍隊は運営されているのですが、軍隊の日常にはそれらの理念からこぼれ落ちてしてしまうものが無数にあり、遍在するエピソードを作者は一つ一つ小さな短編へと昇華させていきます。
 
社会階層の違いから付き合いを禁じられ、駆け落ちする若いカップル。
軍隊の士気を上げるため講演を依頼されたにもかかわらず、軍の命令に背いたことにより生き延びたことを吐露してしまう老兵。
 
表題作のOcean of Wordsはまともな教育が受けられない中、独力で学ぶ若い兵士が描かれているのですが、軍隊に必要な兵隊らしさを兼ね備えていないということで、軍隊内では冷遇されます。
それでも学び続ける若い兵士は、ある日偶然から老兵に見出され転機が訪れます。
 
軍隊という枠の中ではみ出してしまう人たちを描き、ラストではいま・ここを越えていくための手段としていま・ここにない知を求める若い兵士の姿が描かれ、特殊な舞台設定であるにも関わらず、普遍性をもって迫ってくるものがありました。

 

Ocean of Words: Stories (Vintage International)
Ha Jin
Vintage (1998-07-28)
売り上げランキング: 316,824
 
 

6冊目

『21世紀の世界文学30冊を読む』で紹介されていたLydia DavisのVarieties of Disturbance: Stories
 
物語というよりも、瞬間を切り取ったものや、設定だけで積み上げていく作品が多く、特にこの設定だけで突き進んでいく作品が気に入りました。
 
入院してしまった男の子にクラス全員で手紙を書くことにしたが、その手紙の内容について、このフレーズから始めた生徒は○人、この内容について書いた生徒は○人と様々な角度から分析される短編(タイトルを失念)などは、短編の中でも最も好きな作品でした。

 

Varieties of Disturbance: Stories
Lydia Davis
Farrar Straus & Giroux
売り上げランキング: 250,524